ファイル共有のクラウドサービスはいくつかリリースされています。そんなクラウドサービスの一つを利用している東京都のお客様からサーバーの導入についてご相談をいただきました。利用しているクラウドサービスで何点か使い勝手がよくない点がありクラウドサービスをやめて、社内にファイル保存用のサーバー(ファイルサーバー)を設置したいというご要望です。

利用しているクラウドサービスの問題点

現状でお客様が利用しているクラウドサービスでどのような問題が発生しているかを、ヒアリングしてみると以下のような内容がわかりました。

クラウドサービスの問題点
  • アップロードしたファイルが見当たらない場合がある
  • 時間帯によってはファイル操作やファイル共有へのアクセスが遅い
  • ファイルやフォルダの検索ができない
  • バックアップがなく、誤って消してしまったファイルを戻せない
  • 月額の利用料が高価

ファイルが無くなることや時間帯によってはアクセスが遅いというのは、インターネット回線を利用するクラウドサービスなら良くある事象です。クラウドサービス側だけの問題ではなく、お客様側で利用されているインターネット回線に問題がある可能性もあります。

クラウドサービスの応答速度が遅い

インターネット回線の速度が原因だと回線を別のものに変更するなどのコストと時間がかかる対策が必要ですが、インターネットを経由しない社内に設置したファイルサーバーなら改善は可能です。

またファイルの検索ができないという点についてもファイルサーバーならWindows Search Service1を利用した全文検索を利用することができます。もちろんバックアップについてもボリュームシャドーコピー(VSS)2と、Windows Server Backupを組み合わせて、多重バックアップも可能です。
1 Windows Search Service はWindows Serverで全文検索を利用するためのサービス
2 ボリュームシャドーコピー (Volume Shadow Copy:VSS) はファイルのスナップショットを取得するための機能

社外からファイルサーバーへのリモートアクセス

逆にクラウドサービスならではメリットもあります。クラウドサービスは基本的にインターネットに公開していますので、社内だけでなく出張先などからでもアクセスが可能です
お客様は外出先からもファイルにアクセスできる利便性を評価しており、社内にファイルサーバーを設置した場合でも社外からファイルを閲覧・編集したいという希望がありました。

ローカルネットワークに設置したサーバーは通常、外部からのアクセスはできないためこの点についてはファイルサーバーとは別にネットワークのソリューションを組み合わせる必要があることをお話ししました。

バックアップとリモートアクセスの構成

今回の相談では信頼性という面でファイルサーバーは一般的なNASではなくWindows Serverベースのファイルサーバー導入を考えているということです。ファイルサーバーはBCP3の観点から、クラウドにバックアップを取得したいという点もありました。
3 BCP事業継続計画(Business Continuity Plan)ITでは遠隔地バックアップなどでBCP対策を行うことが多い

ヒアリングした現状の問題点と希望する構成を社内で検討し、提案したシステムは社内にWindowsベースのファイルサーバーを設置して、社外からはのアクセスはVPNルーターを新規導入しL2TP/IPSecを利用したリモートVPNで接続するという構成です。

L2TP/IPSecは接続に関する機能がWindowsPCやスマートフォンに標準で実装されていますので、追加でアプリケーションをインストールする必要もなく、接続用の設定を行うだけで利用ができる便利なリモート接続方法です。L2TP/IPSec間の通信は完全に暗号化されていますので、外部からの盗聴は不可能な接続になります。

多重バックアップ構成

バックアップはサーバーに接続した外部ストレージに取得するだけではなく、マイクロソフトのクラウドサービス Azureにもバックアップを取得する形にしました。

データの復旧が必要になった場合、日常のデータは外部ストレージから行い、外部ストレージが故障でアクセスできない、またはサーバーが壊滅的な打撃(例えば天災など)を受けた場合にはクラウドからリストアするという多重バックアップ構成になります。上記の構成で提案後にお客様にてご検討、ご発注を頂きました。

導入作業の詳細と導入コストを下げる方法

設置場所が東京都内になりますので、サーバーとVPNルーターは事前に構築して現地に運びます。既存システムからのデータ移行はお客様にて行うため、平日での設置になりました。休日や夜間の設置作業の場合、費用がやや追加になりますので、可能な場合には平日の営業時間内での作業をオススメしてています。

今回の環境ではファイルサーバーは新規の導入になるため、サーバーの運用には欠かせない無停電装置(UPS)も同時に設置します。UPSがない場合には瞬間的な停電や休日の停電など、電源の障害に対応できないためファイルサーバーとセットで導入させていただきます。

UPS、VPNルーター、ファイルサーバー(今回はDELL製のものを選定しました。)を設置、稼働確認まで行い正常に稼働することを確認して作業は完了となりました。サーバー側の設置作業はここまでで完了となりますが、PC側にも多少の作業が必要になります。PC側の作業も無事に完了して正常に運用開始となりました。

ファイルサーバーを導入したことによるメリット

今回のファイルサーバー導入作業でメリットとして特に大きかったのはファイル操作の速度向上です。クラウドサービスがどれだけ早いといってもインターネットを経由しますので、LAN内で通信するファイルサーバーとは比較になりません。操作した直後に「応答が速い」とコメントをいただけるぐらいに速度向上しました。

検索についても同じくLAN内だと応答速度が速く、サーバースペックもありこちらもかなり使い勝手が向上したようです。外部からの接続に関しても操作はエクスプローラーで行うことができるため、社内にいるのと同じ感覚で利用できることに驚かれていました。

ファイルサーバーはファイルを共有することが第一の役割ですが、実は付随して検討する要素が多くあります。単純にファイル共有ができれば良いという場合もあるかと思います。それ以外にも利用する幅を広げることができることを理解いただきました。